取扱説明書は法律で義務? 作らなくてはならない理由を、法律と責任から考える
当方には、家庭用品品質表示法(品表法)やPSEマークの対象になる製品の取扱説明書のご依頼がよくあります。こうした製品は、法律で表示しなければならない事項が決まっているので、「それをもとに作ってほしい」というご依頼です。
一方で、「そもそも取扱説明書は法律で義務なのか」と聞かれることもあります。結論からいうと、すべての製品に取扱説明書を付けることを一律に義務づけた法律はありません。ただ、製品によっては表示や情報の提供が法律で求められていて、実際には取扱説明書に載せることになります。また、法律で求められていない製品でも、取扱説明書の内容が責任を問われる場面につながります。
この記事では、取扱説明書を作らなくてはならない理由を、法律と責任の面から整理します。なお、ここで紹介するのは法律の一般的な内容です。個々の製品にどの法律が当てはまるかは、所管の省庁や専門家にご確認ください。
土台にある「消費者基本法」
取扱説明書の話をするときに、まず押さえておきたいのが消費者基本法です。この法律は、事業者が消費者に対して負う責務を定めています。
第五条 事業者は、第二条の消費者の権利の尊重及びその自立の支援その他の基本理念にかんがみ、その供給する商品及び役務について、次に掲げる責務を有する。
一 消費者の安全及び消費者との取引における公正を確保すること。
二 消費者に対し必要な情報を明確かつ平易に提供すること。
(消費者基本法 第五条第一項より抜粋)
二の「必要な情報を明確かつ平易に提供すること」は、まさに取扱説明書の役割そのものです。わかりやすい取扱説明書を作ることには、法律の上でもこうした根拠があります。
私がPLアドバイザー(初級)の資格をとったときに学んだテキストでも、取扱説明書や表示の根拠として、この法律を重視していました。
ただし、消費者基本法は事業者の「責務」を定めたもので、違反したからといって直接罰せられるものではありません。具体的に何を表示しなければならないかは、製品ごとの法律が決めています。
製品ごとに、法律で表示が求められるもの
PSEマークなどの「PSマーク」
電気製品の多くは、電気用品安全法の対象です。製造や輸入をする事業者は、国が定めた技術基準に製品を適合させる義務があり、その義務を果たした製品にPSEマークを付けることができます。そして、PSEマークのない製品は、販売することも、販売のために店に並べることもできません。違反すると、1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金(またはその両方)が科されることがあります。
このPSEマークの前提になる技術基準の中に、表示についての決まりがあります。
電気用品は、安全上必要な情報及び使用上の注意(家庭用品品質表示法(昭和三十七年法律第百四号)によるものを除く。)を、見やすい箇所に容易に消えない方法で表示されるものとする。
(電気用品の技術上の基準を定める省令 第十九条)
つまり、PSEマークを付けるには、安全上必要な情報や使用上の注意を伝えることも条件の一部になっています。具体的に何をどこに表示するかは、製品の種類ごとに決まっています。
最近はモバイルバッテリーの安全性が注目されるようになったこともあり、当方でもPSEに関わる製品の取扱説明書のご依頼をよくいただきます。
PSマークには、PSEのほかに、生活用品のPSC(消費生活用製品安全法)、都市ガス用の機器のPSTG(ガス事業法)、LPガス用の機器のPSLPG(液化石油ガス法)があります。考え方は同じで、マークのない対象製品は販売できません。
子供用の製品は、注意の表示が販売の条件に
2025年12月から、子供用の製品に新しい決まりができました。消費生活用製品安全法の改正で「子供用特定製品」という区分ができ、指定された製品は、国の安全基準に適合させたうえで、対象年齢などの使用上の注意を表示しなければなりません。これを満たして子供PSCマークを付けなければ、販売することができません。
最初は乳幼児用ベッドと乳幼児用玩具(3歳未満向けのおもちゃ)の2つでしたが、2026年7月8日からは乳幼児用ベッドガードとベビーカーも加わり、今は4つの製品が指定されています。
経済産業省の事業者向けガイドラインでも、守らなかった場合の処分の対象として「使用上の注意等の表示義務」がはっきり書かれています。使用上の注意を書くこと自体が、法律上の義務になっている例です。
家庭用品品質表示法
家庭用品品質表示法は、消費者が品質を正しく知って選べるように、家庭用品に表示すべき事項を定めた法律です。電気製品では、たとえば「使用上の注意」の表示が求められています。
消費者庁のよくある質問では、電気製品の使用上の注意は、使うときにも見られるように、製品の本体か取扱説明書に表示する必要があるとされています。包装の箱だけに書くのは認められていません。また、取扱説明書は「消費者の見やすい箇所」に当たるので、本体に表示がなくても、取扱説明書に必要な表示があればよい、とも説明されています。
取扱説明書が、法律で求められる表示の場所としてはっきり扱われている例です。
そのほかの法律
ほかにも、製品によっては次のような決まりがあります。
| 法律 | 対象 | 決まっていること |
|---|---|---|
| 消費生活用製品安全法 | 石油給湯機、石油ふろがま(特定保守製品) | 製造年月や点検期間などを製品に表示し、点検に関する書面を添付しなければならない |
| 医薬品医療機器等法(薬機法) | 医療機器など | 注意事項などの情報を、インターネットなどで公表しなければならない |
| 労働安全衛生規則 | 仕事で使う機械 | 機械を譲渡・貸与するときは、危険な箇所などを文書で相手に伝えるよう努めなければならない(努力義務) |
機械の取扱説明書については、「機械の取扱説明書に関わるJIS」で紹介しています。
法律が決めるのは「何を表示するか」まで
ここまで見てきたように、法律が決めているのは、表示しなければならない事項です。取扱説明書の全体として、何をどの順番で、どう書くかまでは決まっていません。
そのため、実際に取扱説明書を作るときは、法律で決まった事項を押さえたうえで、規格やガイドラインを参照しながら、一つひとつの製品に当てはめて書いていくことになります。消費者向けの取扱説明書なら、たとえば「JIS S 0137」が参考になります。取扱説明書に関わる規格は「取扱説明書に関わるJISの一覧」にまとめています。なお、JISは任意の規格なので、それだけで義務になるわけではありません。
法律で求められていなくても、責任はある
どの製品にも関わるのが、製造物責任法(PL法)です。PL法は、取扱説明書を付けることを義務づけた法律ではありません。ただ、製品の「欠陥」によって人がけがをしたり、物が壊れたりしたとき、製造業者や輸入業者が損害を賠償する責任を定めています。
この法律において「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。
(製造物責任法 第二条第二項)
製品そのものに問題がなくても、必要な警告や注意が十分に伝えられていないと、「欠陥」と判断されることがあります。どのような場合に欠陥とされたのかは、「取扱説明書の安全注意は、何のためにあるのか」で判例とあわせて紹介しています。輸入品やOEM製品で誰が責任を負うのかは、「輸入品・OEM製品の取扱説明書は、メーカー任せにできない」をご覧ください。
海外に輸出する製品では、さらに事情が変わります。たとえばEUの機械規則の対象になる製品では、取扱説明書が必須です(「EU機械規則で取扱説明書はデジタル提供できる?」)。
法律のほかにも、取扱説明書が求められる場面
法律とは別に、取引の中で取扱説明書が求められることもあります。私が経験した中では、家電量販店から「取扱説明書を作ってほしい」とメーカーに依頼があり、そのメーカーから当方にご依頼をいただいたことがありました。売る側にとっても、取扱説明書は製品を安心して扱うために欠かせないものです。
取扱説明書は、作って終わりではない
取扱説明書は、一度作れば終わりというものではありません。お客様からの問い合わせやクレームを受けて、メーカーのご依頼で注意を書き足すことは、よくあります。製品が改良されていくのと同じように、取扱説明書も、ときどき内容を見直して改訂していく必要があります。
万一、製品の事故が起きたときにも、同じことがいえます。経済産業省のガイドラインでは、リコール(製品の自主回収など)の中に、似た事故を防ぐための使用上の注意などの情報を消費者に伝えることが含まれています。
まとめ
- すべての製品に取扱説明書を付けることを一律に義務づけた法律はない
- それでも、PSEマークの技術基準、子供用製品の注意表示、家庭用品品質表示法など、製品によっては表示や情報の提供が法律で求められる
- 法律が決めるのは表示する事項までで、取扱説明書の書き方は、規格やガイドラインを参照しながら製品ごとに考える
- 法律で求められていなくても、警告や注意が足りなければ、PL法で責任を問われることがある
- 消費者基本法は、必要な情報を「明確かつ平易に」提供することを事業者の責務としている
法律で決められたことを満たすのは、最低限のラインです。そのうえで、使う人に正しく伝わる取扱説明書を作ることが、事故を防ぎ、事業者を守ることにもつながります。
当方では、PSEや家庭用品品質表示法の対象製品の取扱説明書も、法律で求められる表示をふまえて作成しています。既存の取扱説明書の見直しや改訂のご相談も、お気軽にお問い合わせください。
\取扱説明書の制作・見直しのご相談は無料です/