機械の取扱説明書に関わるJIS JIS B 9719と新JISの関係

機械の取扱説明書に関わるJIS JIS B 9719と新JIS(JIS Z 82079-1)の関係

当方では、大型の産業機器の取扱説明書も制作しています。家電の取扱説明書と比べると、関わる規格や法令が多く、どの規格を見ればよいのかわかりにくい分野でもあります。

この記事では、機械の取扱説明書に関わる規格として、JIS B 9719(ISO 20607)の要点を紹介します。あわせて、機械安全の基本となるJIS B 9700(ISO 12100)や、2026年8月に制定された取扱説明書の新JIS「JIS Z 82079-1」との関係も整理します。

家電とは違う、機械の取扱説明書

大型の産業機器の取扱説明書では、家電に比べて、設置と保守・メンテナンスの情報が大事になります。特に保守・メンテナンスは、機械を運用していくうえで欠かせないもので、かなりのページを割きます。また、点検や試運転といった、家電にはない項目も必要になります。

読む人も、家電とは違います。設置を担当する業者、日々運転するオペレーター、保守を担う技術者など、機械のライフサイクルの中で、さまざまな人が取扱説明書を手に取ります。

JIS B 9719とは

JIS B 9719:2022「機械類の安全性-取扱説明書-作成のための一般原則」は、2022年8月に制定された、機械の取扱説明書についてのJISです。国際規格ISO 20607:2019を、技術的な内容や構成を変えずに日本語にした一致規格です。規格番号の頭の「B」は、JISの部門のうち「一般機械」を表しています(あらゆる製品に共通する新JISは、分野を問わない「Z」の部門です)。

この規格は、機械メーカーが取扱説明書の安全に関わる部分を作るための要求を定めたものです。機械安全の基本規格JIS B 9700が「使用上の情報」について定めている一般的な要求(6.4.5)を、さらに詳しくしたものと位置づけられています。

規格の解説によると、機械安全の規格には、安全距離やインターロック、非常停止といった設計面のJISはそろっていた一方で、使用上の情報について詳しく定めたJISはありませんでした。その空白を埋めるために作られたのが、この規格です。

機械安全の「3ステップ」と使用上の情報

JIS B 9719を理解するうえで欠かせないのが、機械安全の基本規格JIS B 9700(ISO 12100)です。

この規格では、機械のリスクを減らす方法として、まず設計で危険そのものをなくす(本質的安全設計方策)、次に安全装置などで守る(安全防護・付加保護方策)、それでも残るリスク(残留リスク)を使用上の情報で伝える、という3つの段階が示されています。取扱説明書は、この最後の段階を担うものです。

JIS B 9719は、残留リスクの情報を提供するために欠かせない原則を定めた規格でもあります。

JIS B 9719の主な要求

誰に向けて、何を伝えるか

取扱説明書の目的は、使う人が機械をそのライフサイクルを通じて安全に、効果的に、効率よく使えるようにすることで、合理的に予見できる誤使用も考えることとされています。

取扱説明書の対象となる人(対象グループ)を特定し、取扱説明書に記載することも求められています。例として、設置要員(システムインテグレーターなど)、オペレーター、保全要員、清掃要員、分解要員が挙げられています。対象グループごとに文書を分けてもよく、1冊にまとめる場合は、その人に関係のない情報を誤って参照しないよう、はっきり分けておく必要があります。

残留リスクは「一般的な説明」で済ませない

この規格の中心ともいえるのが、残留リスクの扱いです。機械メーカーは、リスクアセスメントとリスク低減方策にもとづいて、残留リスクの一つひとつについて、対象グループに情報を提供し、警告しなければならないとされています。残留リスクについての一般的な説明は避けなければならない、とも明記されています。

残留リスクの情報は、機械を使う側が、さらにリスクアセスメントやリスク低減方策を行うためにも使われます。JISでは、厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」で使用者側にもリスクアセスメントが求められていることを踏まえて、この点が補足されています。

そのため、取扱説明書を作るときは、メーカーが行ったリスクアセスメントの結果を提供してもらえるのが望ましいと考えています。提供がない場合は、当方でもどのような危険があるかを考えながら、安全上の注意を作っていくことになります。

取扱説明書に含める内容

規格には、取扱説明書の内容の例が表で示されています。項目は大きく次のとおりです。

  • 基本部分(タイトルページ、目次、序文と目的)
  • 安全
  • 機械の概要(意図する使用、主な仕様、制御装置と表示装置、設置レイアウトなど)
  • 輸送、取扱い、保管
  • 組立て、設置、コミッショニング(安全システムの確認と試験を含む)
  • 出荷時の設定
  • 運転
  • 製品や機能の切替え
  • 検査、試験、保全
  • 清掃、殺菌・消毒
  • 不具合の発見、トラブルシューティング、修理
  • 分解、使用停止、廃棄
  • 文書と図面、索引、用語集、附属書

この表は一般的なテンプレートで、すべての項目をオペレーター向けの取扱説明書に含める必要はない、とされています。家電の取扱説明書と比べると、設置から保全、廃棄まで、機械のライフサイクル全体にわたる項目が並んでいることがわかります。

「安全」の箇条には、意図する使用で起こりうる危険状態、合理的に予見できる誤使用で起こりうる危険状態、残留リスク、一般的な警告と注意事項を含めることとされています。特定の作業に関わる安全情報は、その作業を説明している箇所に入れる必要があります。事故や故障のときの対応など、非常時の情報も求められています。

警告に含める4つの要素

警告には、シグナルワード、危険源の性質や種類、考えられる傷害や損害、それをどう避けるか、の4つを示すこととされています。シグナルワードとしては、人への危害について「危険(DANGER)」「警告(WARNING)」「注意(CAUTION)」が挙げられています。

規格の解説では、物に対する注意を示すシグナルワードとして「注記(NOTICE)」があることも補足されています。人の安全を確保するための規格群だからこそ、人への危害と物への損害を分けて考えていることがわかります。

そのほかの要求

  • わかりやすい表現:標準化された用語を使い、同じものは一つの用語で呼ぶ。能動態を使い、翻訳しやすい文体にする
  • 部品メーカーの情報:コンポーネントやサブシステムの供給者の情報は、取扱説明書に組み込むか、元の説明書を添えて参照先を示す
  • ITセキュリティ:該当する場合は、ITセキュリティの脆弱性についての情報も提供する
  • 言語:顧客と合意した言語で提供する。機械を初めて市場に出す国の法的要求を把握しておく
  • 発行の形態:紙だけでなく、機械に入った電子媒体、Webサイトやサーバー、動画や音声など、顧客と合意した形態で提供できる

新JIS(JIS Z 82079-1)との関係

新JIS(JIS Z 82079-1)は、製品の分野を問わず、あらゆる製品の使用情報に共通する原則と要求を定めた規格です。これに対してJIS B 9719は、機械に絞った規格です。

JIS B 9719の中でも、取扱説明書全体の構想や作成については、IEC/IEEE 82079-1を参照するよう示されています。規格の解説には「IEC/IEEE 82079-1は、現在JIS化の作業が進められている」と書かれていて、それが2026年8月にJIS Z 82079-1として制定されました。また、取扱説明書は「使用上の情報の一部」と定義されていて、取扱説明書だけでなく使用情報全体で考えるという点は、新JISと同じです(新JISの「使用情報」については「取扱説明書だけが「使用情報」じゃない」で紹介しています)。

新JIS(JIS Z 82079-1) JIS B 9719
対象 あらゆる製品の使用情報 機械の取扱説明書
中心となる内容 使用情報全体の原則、作り方、作り手の力量、評価 取扱説明書の安全に関わる部分、残留リスクの伝え方
もとになった国際規格 IEC/IEEE 82079-1:2019 ISO 20607:2019

機械の取扱説明書では、新JISで全体の考え方を押さえ、JIS B 9719で機械の安全に関わる部分を具体化する、という関係になります。なお、機械安全の規格の体系では、特定の機械についての規格(タイプC規格)がある場合は、そちらが優先されます。

国内の残留リスク情報の通知

国内では、法令の面からも、機械の残留リスクの情報提供が求められています。

2012年4月に施行された改正労働安全衛生規則(第24条の13)では、事業場で使われる機械を譲渡または貸与する者に、その機械の危険性などを相手方の事業者に通知することが努力義務とされました。あわせて、厚生労働省は「機械譲渡者等が行う機械に関する危険性等の通知の促進に関する指針」を定め、残留リスクの一覧や残留リスクマップの作り方を示しています。

EU向けの機械では

ISO 20607は、欧州規格「EN ISO 20607」としても採用されていて、EUの機械指令のもとで、取扱説明書についての整合規格として使われてきました。JIS B 9719はこれと同じ内容なので、JIS B 9719に沿って作った取扱説明書は、EU向けの取扱説明書づくりの土台にもなります。

EUでは、2027年1月20日から機械指令に代わってEU機械規則((EU) 2023/1230)が適用され、取扱説明書をデジタルで提供するための条件なども新しく定められています(詳しくは「EU機械規則で取扱説明書はデジタル提供できる?」で紹介しています)。また、取扱説明書は販売先の国の言語で用意する必要があり、EU向けでは8〜10言語ほどへの翻訳が必要になることもあります。規格への対応とあわせて、翻訳の手配や進行管理まで見込んでおくことが大切です。

まとめ

  • JIS B 9719(ISO 20607と一致)は、機械の取扱説明書の安全に関わる部分についての規格。JIS B 9700の使用上の情報の要求を詳しくしたもの
  • 残留リスクは一つひとつ情報提供し、警告する。一般的な説明で済ませない
  • 取扱説明書には、設置から保全、廃棄まで、機械のライフサイクル全体にわたる内容が求められる
  • 警告には、シグナルワード、危険源、考えられる傷害や損害、避け方の4つを示す
  • 新JISはあらゆる製品に共通する規格、JIS B 9719は機械に絞った規格。両方をあわせて考える

新JISの全体像は「JIS Z 82079-1で取扱説明書の何が変わる?」で解説しています。

当方では、大型の産業機器の取扱説明書や、EU向けの多言語展開にも対応しています。お気軽にお問い合わせください。


※JIS B 9719の内容は、JIS B 9719:2022の本文と解説をもとに要約しています。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の製品の法令適合性を保証するものではありません。

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