安全注意は何のためにあるのか 判例に見る「警告の欠陥」

取扱説明書の安全注意は、何のためにあるのか 判例に見る「警告の欠陥」

取扱説明書の冒頭に並ぶ「安全上の注意」。読む人は多くありませんし、作る側にとっても「とりあえず書いておくもの」になりがちです。

けれども、安全注意は、事故が起きたときに製品の評価を左右します。製品そのものに問題がなくても、警告が足りなかったために、PL法(製造物責任法)の「欠陥」があると判断された例もあります。

この記事では、安全注意がなぜ必要なのかを、PL法の判例と、2026年8月に制定された取扱説明書の新JIS「JIS Z 82079-1」、海外の動きをもとに紹介します。

中小メーカーの取扱説明書に多い「これで大丈夫?」

取扱説明書の制作や見直しの依頼を受けていると、安全注意の書かれ方は、メーカーによってかなり差があると感じます。

大手メーカーでは少ないのですが、中小メーカーの取扱説明書には、「これで大丈夫なのだろうか」と思うものがかなりあります。危険な箇所があるのに注意が書かれていない、書かれていても何が起きるのかがわからない、といったものです。

海外メーカーの取扱説明書は、さらに顕著です。最低限のことしか書かれていないものが多く、日本市場向けには、ほぼ作り直しになります。きちんと書かれたものもありますが、そのまま翻訳するとわかりにくいので、やはり作り直しが前提になります(輸入品については「輸入品・OEM製品の取扱説明書は、メーカー任せにできない」でも紹介しています)。

PL法の「欠陥」と、指示・警告上の欠陥

PL法は、製品の欠陥によって人の生命、身体または財産に損害が生じた場合に、製造業者などが賠償責任を負うことを定めた法律です。ここでいう「欠陥」は、次のように定義されています(第2条第2項)。

当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること

法律の定義はこれひとつですが、解釈のうえでは、欠陥は次の3つに分けて考えられるのが一般的です。

欠陥の種類 内容
製造上の欠陥 製品が設計どおりに作られていない
設計上の欠陥 設計そのものに問題があり、安全性を欠いている
指示・警告上の欠陥 取り除けない危険について、適切な指示や警告がされていない

取扱説明書の安全注意や製品の表示に関わるのが、3つ目の「指示・警告上の欠陥」です。設計や製造に問題がなくても、指示や警告が足りなければ、製品に欠陥があると判断されることがあります。

警告が足りないと判断された判例

消費者庁がまとめている裁判例などから、警告や表示が問題になった例を紹介します。

乳児用のベッドガード(東京地裁 2024年3月22日判決)

生後9か月の子どもが、就寝中にベッドガードとマットレスのすき間に挟まって亡くなった事故です。ベッドガードは台湾のメーカーが製造し、被告の会社が輸入して販売したものでした。

裁判所は、ベッドガードが英国の規格(BS規格)や国内の民間の安全基準(SG基準)に適合していたことなどから、設計上の欠陥は認めませんでした。一方で、指示・警告上の欠陥を認めています。

このベッドガードには「生後18か月未満の乳幼児には適さない」という使用対象年齢の表示がありましたが、取扱説明書と外箱だけで、本体には表示がありませんでした。危険性についても、取扱説明書に添付された文書に「マットレスとのすき間で思わぬ事故が発生するおそれがあります」とあるだけで、どんな事故が起きるのかは書かれていませんでした。

裁判所は、使う人がベッドガードで子どもが窒息するとは通常考えないことを重く見ました。そのうえで、取扱説明書は必ず読まれるとは限らず、子ども用品は人の手から手へ渡ることも多いため外箱が届かないこともある、と指摘しています。そして、使用対象年齢は使う人が容易に気付く場所に示し、危険性は「使用の中止に踏み切れる程度に、可能な限り具体的に」示すべきだったと判断しました。

なお、この判決では、取扱説明書を読まずに設置したことなどを理由に、被害者側にも3割の過失があるとされています。2024年11月の東京高裁判決も、賠償額は減らしたものの、指示・警告上の欠陥は認めたと報じられています。

給食用の強化ガラス食器(奈良地裁 2003年10月8日判決)

小学3年生の児童が、給食の片付けの際に落とした強化耐熱ガラス製の食器の破片で、目にけがをした事故です。

裁判所は、カタログや取扱説明書で「丈夫で割れにくい」ことを特長として強調するのであれば、割れた場合の具体的な状態や危険の大きさもあわせて記載すべきだったとして、表示の面で欠陥があると判断しました。製品の長所を打ち出すなら、それと表裏一体の危険も伝える必要がある、ということです。

資源ゴミの選別機械(東京高裁 2002年10月31日判決)

飲料缶を選別する機械のローラーに付着した缶を手で取ろうとして、腕を巻き込まれた事故です。

使っていたのは一般廃棄物の処理業を始めたばかりの会社で、機械についての専門知識はありませんでした。機械の危険性について説明を受けておらず、説明書も渡されていませんでした。裁判所は、稼働中に手を入れたのは誤った使い方ではあるものの、メーカーにとって予見できる使い方だったとし、機械の構造とあわせて欠陥を認めました。専門知識のない使い手に対しては、危険性を具体的に説明し、警告すべきだったとしています。

警告が十分と判断された判例

反対に、警告が適切だったとして、欠陥が認められなかった例もあります。

  • こんにゃく入りゼリー(大阪高裁 2012年5月25日判決):子どもや高齢者がのどに詰まらせる危険が、外袋表面の絵表示や、裏面の赤枠で囲んだ目立つ警告文で明確に示されていたことなどから、欠陥は認められませんでした。
  • 化粧品(東京地裁 2000年5月22日判決):肌に合わない場合は使用を中止するよう、外箱と容器に目につきやすく端的に書かれていたことから、指示・警告上の欠陥は認められませんでした。
  • 肺がん治療薬(最高裁 2013年4月12日判決):医療用医薬品の添付文書が適切かどうかは、処方する医師などの知識や能力、記載の形式なども含めて判断すべきだとされました。誰が読むものなのかを前提に、警告の十分さが判断されるということです。

また、何でも警告すればよいというわけでもありません。小便器用の洗浄剤をビルの排水槽の清掃に大量に使った事故をめぐる裁判(東京地裁 2011年1月17日判決)では、通常の使用者にとって明らかな危険や、想定からかけ離れた使い方による危険まで、警告がないことを欠陥とはいえないと判断されています。

これらの判例を並べてみると、警告が書いてあったかどうかだけでなく、使う人に届く場所にあったか、何が起きるのかが具体的に伝わるか、読む人の知識に合っているかが見られていることがわかります。

新JISも「取扱説明書は製品の一部」と考える

新JIS(JIS Z 82079-1)のもとになった国際規格IEC/IEEE 82079-1も、同じ方向を向いています。

この規格は、使用情報(取扱説明書など)は製品の一部であり、使用情報に欠陥があれば製品全体に欠陥がある、という立場をとっています(5.2.2)。また、使用情報は製品の安全な操作や保守を促すものでなければならない一方で、設計の不備や、安全装置がないことを補うことはできない、とも明記しています(5.2.4)。

国内と海外の違い

PL法の考え方は、国や地域によって違いがあります。

  • 日本:損害賠償は、実際に生じた損害を埋め合わせるためのものとされています。外国製の高級車の火災をめぐる裁判(東京高裁 2003年10月30日判決)でも、メーカー側を罰する意味での賠償は認められませんでした。
  • アメリカ:製造物責任の訴訟が陪審によって審理されることがあり、悪質な場合には実際の損害を超える懲罰的損害賠償が認められることもあります。警告の不備は、製造物責任の主要な争点のひとつです。
  • EU:2024年に新しい製造物責任指令((EU) 2024/2853)が採択され、2026年12月9日より後に市場に出される製品から適用されます。欠陥かどうかを判断する際に考慮する事情として、表示や包装、組立・設置・使用・保守の説明が条文に具体的に挙げられ、製品が想定する使い手のニーズも考慮されることになりました。

海外に製品を出すメーカーにとって、取扱説明書の安全注意の重みは、これからさらに増していくと考えられます。

安全注意は「免罪符」ではない

ここまで、警告が足りないと不利になるという話をしてきましたが、私がいちばん大切にしているのは、安全注意は企業の責任逃れのためではなく、使う人の安全のためにある、ということです。

安全注意は、免罪符にはなりません。いちばんよいのは、製品の側で危険そのものを取り除くことです。性能上どうしても取り除けない危険についてだけ、警告で伝える。この順番を忘れないようにしています。機械安全の国際規格(ISO 12100)などでも、まず設計で危険をなくし、次に安全装置などで守り、それでも残る危険を使用上の情報で伝える、という順番が示されています。

取扱説明書の記載だけでは危険だと感じる箇所については、製品本体に注意ラベルを貼ることを提案することもあります。ベッドガードの判例のように、取扱説明書が読まれない場面は実際にあるからです。

ただ、どこまでを安全注意に書くか、ラベルをどうするかは、最終的にはメーカーの判断です。事故が起きたときに責任を負うのはメーカーなので、メーカーの考え方やご要望は基本的に尊重しています。そのうえで、制作者として気付いたことは、提案としてお伝えするようにしています。

まとめ

  • PL法では、設計や製造に問題がなくても、指示や警告が足りなければ「欠陥」と判断されることがある
  • 判例では、警告の有無だけでなく、使う人に届く場所にあったか、何が起きるかが具体的に伝わるか、読む人に合っているかが見られている
  • 新JISのもとになった国際規格も、取扱説明書を製品の一部と考え、設計の不備は取扱説明書では補えないとしている
  • EUでは2026年12月から新しい製造物責任指令が適用され、取扱説明書の位置づけがより明確になる
  • 安全注意は免罪符ではない。まず製品で危険を取り除き、残る危険を警告で伝える

新JISの全体像は「JIS Z 82079-1で取扱説明書の何が変わる?」、取扱説明書が持つ法的な役割については「取扱説明書が担う二つの顔」で解説しています。

当方では、既存の取扱説明書の安全注意の見直しにも対応しています。気になる点があれば、お気軽にご相談ください。


※判例の内容は、消費者庁「PL法論点別裁判例 一覧」などをもとに要約しています。

※規格の内容は、IEC/IEEE 82079-1:2019(日本規格協会の和訳)をもとに要約しています。JIS Z 82079-1:2026の本文とは訳語が異なる場合があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の製品の法令適合性や法的責任の有無を判断するものではありません。

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