輸入品・OEM製品の取扱説明書は、メーカー任せにできない PL法と新JISから考える
海外から仕入れた製品や、他社に製造を委託して自社ブランドで販売するOEM製品では、取扱説明書も製造元が用意したものを使うことがよくあります。海外メーカーの取扱説明書を日本語に翻訳して、そのまま同梱しているケースも少なくありません。
しかし日本では、輸入した事業者や、自社名を付けて販売する事業者も、製品の安全について責任を負います。この記事では、PL法と、2026年8月に制定された取扱説明書の新JIS「JIS Z 82079-1」の視点から、輸入品・OEM製品の取扱説明書で確認したいポイントを整理します。
輸入事業者やOEMの発売元も「製造業者等」になる
製造物責任法(PL法)で責任を負う「製造業者等」には、製品を作った者だけでなく、次のような事業者も含まれます(第2条第3項)。
- 製品を業として輸入した事業者
- 自ら製造業者として、製品に自社の氏名や商号、商標などを表示した事業者(製造業者と誤認させるような表示をした事業者を含む)
- 製造や販売の形態などからみて、実質的な製造業者と認められる表示をした事業者
つまり、海外製品の輸入事業者や、OEM製品に自社のブランド名を付けて販売する事業者は、日本ではメーカーと同じ立場で責任を負うことになります。輸入品の場合、被害を受けた人が海外の製造業者に直接責任を問うのは現実には難しいことが、その背景にあります。
一方、自社名を表示せずに販売するだけの小売店などは、原則としてPL法の「製造業者等」にはあたりません。
取扱説明書の不備も、自社の責任になる
PL法の考え方では、製品の欠陥は一般に「製造上の欠陥」「設計上の欠陥」「指示・警告上の欠陥」の3つに分けられます。取扱説明書の警告が不十分だった場合などは、指示・警告上の欠陥と判断される可能性があります。
海外メーカーが作った取扱説明書をそのまま使っていたとしても、その内容に不備があれば、責任を問われるのは日本で製品を販売している輸入事業者や発売元です。取扱説明書を「メーカー任せ」にできない理由は、ここにあります。
メーカーの取扱説明書で、確認したい5つのポイント
新JISは、製品の分野を問わず、取扱説明書(使用情報)に必要なことを定めた規格です。その視点から、海外メーカーの取扱説明書を見るときのポイントを挙げます。
1. 日本語として、正しく伝わるか
新JISは、使用情報を作るときには、販売する地域の言語に関する要件を確かめ、それに従って翻訳版を用意することを求めています。使用情報は販売国の公用語で提供するのが一般的だ、とも述べています(6.2.4)。
日本で販売するなら、日本語で、日本の使い手にとって自然な表現で書かれていることが前提です。翻訳には、翻訳先の言語を母語とし、製品の種類や専門用語に通じた、力量のある翻訳者が責任を持つことが望ましいとされています(10.4)。機械翻訳をそのまま使ったような不自然な日本語は、それだけで安全に関わる情報が伝わらない原因になります。
2. 日本の使い方や環境に合っているか
海外向けの取扱説明書は、その国の電源や住環境を前提に書かれています。日本の電源(AC100V、50/60Hz)やコンセントの形、住まいの広さや設置場所の事情と合っているかを確認します。海外仕様のコンセントや家屋が描かれたイラストは、日本の使い手を迷わせます。
3. 日本向けの型番・仕様と合っているか
海外向けの取扱説明書は、複数の型番や地域ごとの仕様を1冊にまとめていることがあります。新JISは、使用情報がどの製品のものかを明確に識別できるようにし、複数の版を対象にする場合は、その違いがわかるようにすることを求めています(7.2.2)。
日本で販売する仕様と記載が合っていない箇所は、削除するか、日本向けに書き直す必要があります。
4. 日本の問い合わせ先が載っているか
新JISは、使用情報に、製品の供給者の氏名・住所や連絡先を示すことを求めています(7.2.3)。海外メーカーの取扱説明書には、海外の住所や問い合わせ先しか載っていないことがあります。日本の使い手が困ったときに連絡できる、日本の問い合わせ先を載せましょう。
5. 日本の法令が求める情報が含まれているか
新JISは、使用情報を計画する際に、販売する市場の法令や規格の要求事項を考慮することが望ましいとしています(6.2.5)。製品によっては、電気用品安全法、電波法、家庭用品品質表示法などで、表示や記載が求められる事項があります。海外向けの取扱説明書には、こうした日本の法令に関わる情報が含まれていないのが普通です。
日本向けの取扱説明書を作る進め方
ステップ1:メーカーから元のデータを入手する
翻訳前の原文や、図版のデータ(編集できる形式のもの)をメーカーから入手します。完成したPDFしかないと、図の差し替えや構成の見直しに手間がかかります。
ステップ2:日本向けの要件を洗い出す
上の5つのポイントに沿って、日本で必要な情報と、不要な情報を洗い出します。家電や日用品であれば、JIS S 0137(消費生活用製品の取扱説明書に関する指針)もあわせて参照します。
ステップ3:翻訳ではなく、日本向けに作り直す
私のところにも、OEMで海外メーカーが作った取扱説明書を翻訳してほしい、というご依頼がよくあります。原文をそのまま日本語に訳しても、意味は通じます。ところが、日本の使い手にとっては、とてもわかりにくいものになってしまうのです。
「翻訳」ではなく「ローカライズ」するには、日本語を母語とする書き手が製品を正しく理解したうえで、操作の説明を日本語で書き起こす必要がある。案件を重ねるたびに、そう痛感しています。ポイント1で触れたように、新JISが翻訳者に、翻訳先の言語を母語とし、製品や専門用語に通じていることを望んでいるのも、同じ考え方だと思います。
原文を訳すだけでなく、構成や図、警告の書き方まで含めて、日本の使い手に合わせて作り直す。これがローカライズです。
ステップ4:仕様変更に合わせて更新する仕組みを作る
新JISは、製品の変更に関する情報が、取扱説明書の作成プロセスに確実に入るよう管理することを求めています(6.2.6)。海外メーカーが製品を改良したときに、その情報が日本側に届き、日本向けの取扱説明書にも反映される流れを、あらかじめメーカーと決めておくことが大切です。
まとめ
- PL法では、輸入事業者や、自社名を表示して販売するOEMの発売元も「製造業者等」として責任を負う
- 海外メーカーの取扱説明書をそのまま使っていても、不備があれば責任を問われるのは日本の事業者
- 日本語として伝わるか、日本の環境・仕様に合っているか、日本の問い合わせ先と法令に関わる情報があるかを確認する
- 翻訳にとどめず、日本向けに作り直し、仕様変更に合わせて更新する仕組みを作る
新JISの全体像は「JIS Z 82079-1で取扱説明書の何が変わる?」、翻訳で気をつけたい表現は「そのマニュアル、直訳していませんか?」で紹介しています。
当方では、輸入品・OEM製品の取扱説明書の日本向けの作り直し(ローカライズ)にも対応しています。お気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の製品の法令適合性を保証するものではありません。
※規格の内容は、IEC/IEEE 82079-1:2019(日本規格協会の和訳)をもとに要約しています。JIS Z 82079-1:2026の本文とは訳語が異なる場合があります。
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