AIで取扱説明書は作れる? 情報から書くことと、実物から見つけることの違い

AIで取扱説明書は作れる? 取扱説明書の作成にAIを使う前に知っておきたいこと

最近は、生成AIを使えば、取扱説明書の体裁を短時間で作れるようになりました。仕様書を渡せば、目次があり、手順が番号付きで並び、安全上の注意まで書かれた原稿が出てきます。

当方でも試してみました。ただ、現状では、そのまま使うのはまずいところや、間違いが結構ありました。この記事では、AIで取扱説明書を作るときに何が足りなくなるのかを、制作の現場から考えます。

AIは、与えられた情報から書くのは得意

AIは、与えられた情報から文章を組み立てるのが得意です。仕様書や設計資料、過去の取扱説明書を渡せば、それらしい新製品の取扱説明書を作ることができます。言葉づかいをそろえたり、文章を整えたりする作業も速く、うまく使えば作業の助けになります。

AIは、世の中にある体験談を学習することはできます。けれども、AI自身が製品に触れて、実際に体験することはできません。

文章は整っても、「見せ方」はまだ人の手が要る

実際に試してみて感じたのは、AIは文章そのものはそれなりに良いものを仕上げてくれる、ということです。一方で、それをどのように配置すれば一番理解しやすいのかという点は、まだ足りていない印象でした。

取扱説明書は、文章だけで伝えるものではありません。どの手順をどの図と並べるか、注意をどこに置くか、1ページにどこまで載せるか。人が見てわかりやすいかどうかは、こうした配置で大きく変わります。AIは、人にとってどうすれば見やすいのかを、まだよく理解できていないように感じます。

これからもっと改善されていくのかもしれません。ただ、少なくとも今のところは、見せ方を決めるところに人の手が必要だと考えています。

情報から書くことと、実物から発見することは違う

取扱説明書づくりで大事なのは、製品の情報を文章にすることだけではありません。実物から「説明すべきこと」を発見することです。

実物に触れると、仕様書には書かれていないことが出てきます。

  • 「カチッと音がするまで」と書いてあるのに、その音が小さくて気づけない
  • ボタンは押せるが、どこまで押せば反応するのかわからない
  • 手順どおりに操作したのに、成功したかどうか判断できない
  • 設計者には当たり前の部品の向きが、初めて見る人には逆に見える

こうした「使った人の戸惑い」そのものが、取扱説明書の材料になります。仕様書に書かれているのは、製品が「どう動くか」です。使う人が「どこで迷うか」は、実物に触れて初めてわかります。

渡されなかった発見は、抜け落ちる

文章や画像だけを受け取るAIは、こうした戸惑いを推測することはできます。しかし、それが実際に起きることを確かめることはできません。

人が実物を観察した結果を渡せば、AIもそれを扱うことができます。けれども、渡されなかった発見は、取扱説明書から抜け落ちてしまう可能性があります。仕様書どおりに整った文章ほど、何が抜けているのかに気づきにくいという面もあります。

人に求められる仕事

AIで取扱説明書の体裁が作れるようになった今、人に求められるのは、実物と説明のずれを見つけて、書くべき事実を確かめることだと考えています。

たとえば「ふたを確実に閉めてください」という説明があったとします。AIはこの文章を、もっと読みやすく整えることはできます。けれども、取扱説明書を作る人が最初に考えるのは、文章の直し方ではありません。

  • 閉まったことは、音・位置・表示のどれで確認できるのか
  • 半分しか閉まっていなくても動いてしまうのか
  • 閉まらないとき、使う人は何をすればいいのか

こうした問いを立てて、説明に必要な事実が足りているかを確かめます。「ここがわからない」という漠然とした感覚を、具体的な確認事項に変えて、実物やメーカーへの確認で裏づける。文章を整える前に、何が足りないのかを見つけることが大切です。

また、作る人自身も、作業を進めるうちに製品に慣れてしまいます。だからこそ、「初心者の気持ちになったつもり」で終わらせず、実際に使う人に操作してもらうなどして、説明が本当に伝わるかを確かめることも欠かせません。

どこに戸惑いが起きやすいのか、どの説明が足りないと事故につながるのか。それを見つけるには、多くの製品の取扱説明書を作ってきた経験が必要です。2026年8月に制定された取扱説明書の新JIS「JIS Z 82079-1」が、取扱説明書を作る人の力量や、作った取扱説明書を使う人に試してもらって確かめることを求めているのも、同じ考え方だといえます(新JISの力量については「製品に詳しい人が、わかりやすい取扱説明書を書けるとは限らない」で紹介しています)。

AIとの付き合い方

AIを使うこと自体が悪いわけではありません。文章をそろえる、表記の揺れを見つける、各言語版と日本語版の内容を照らし合わせるといった作業では、AIは大きな助けになります。

大切なのは、AIが作った原稿をそのまま使わないことです。実物で確かめ、使う人の戸惑いを拾い、書くべき事実を人が確かめる。そのうえで、AIを道具として使うのがよいと考えています。

まとめ

  • AIを使えば取扱説明書の体裁は作れるが、現状ではそのまま使うには間違いや危うい部分が残る
  • AIは与えられた情報から書くのは得意だが、実物に触れて体験することはできない
  • 文章は整っても、どう配置すれば理解しやすいかという見せ方には、まだ人の手が要る
  • 仕様書にない「使う人の戸惑い」は、実物に触れて初めて見つかる。渡されなかった発見は抜け落ちる
  • 人に求められるのは、実物と説明のずれを見つけ、書くべき事実を確かめること。そこには経験が必要
  • AIは道具として使い、原稿は実物で確かめる

外注先を選ぶときのポイントは「取扱説明書の作成を外注するときの流れと、依頼前に準備しておきたいこと」で紹介しています。

当方では、実機の確認や取材をもとに、取扱説明書の作成を行っています。お気軽にお問い合わせください。

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