かんたんガイドに、安全注意をどこまで載せるか 「読まれない」前提で考える
取扱説明書の分量が多くなりそうな製品では、本編とは別に、1枚もののかんたんガイド(クイックスタートガイド)を作ることをおすすめしています。デジタル製品が多いのですが、電気圧力鍋や測定器のように、細かい設定ができる家電でもよく作ります。
かんたんガイドを作るときに毎回悩むのが、安全注意の扱いです。この記事では、かんたんガイドに安全注意をどこまで載せるかを、2026年8月に制定された取扱説明書の新JIS「JIS Z 82079-1」の考え方とあわせて紹介します。
かんたんガイドが「唯一読まれる紙」になる
かんたんガイドがあると、多くの人はそれだけを見て使い始めます。取扱説明書の本編は、困ったときに開くもの、あるいは一度も開かないものになりがちです。
取扱説明書が読まれるとは限らないことは、裁判でも指摘されています。乳児用ベッドガードの事故をめぐる裁判(東京地裁 2024年3月22日判決)では、取扱説明書は使う前に必ず読まなければならないものではなく、使う人が取扱説明書の表示を必ず認識するとはいえない、とされました(詳しくは「取扱説明書の安全注意は、何のためにあるのか」で紹介しています)。
つまり、かんたんガイドに安全注意がなければ、使う人は安全注意を一度も目にしないまま製品を使うかもしれない、ということです。
新JISがかんたんガイドに求めること
新JIS(JIS Z 82079-1)のもとになった国際規格IEC/IEEE 82079-1には、クイックスタートガイドの安全に関する情報についての項目があります(7.11.6)。要点は次のとおりです。
- クイックスタートガイドには、ガイドで説明している作業に関わる、安全上欠かせない情報を含める
- 使う人が、取扱説明書の詳しい安全情報をなぜ、いつ読む必要があるのかを明確にする
- ガイドの冒頭に、取扱説明書の詳しい安全情報への参照を、一般警告の図記号または注意喚起語とともに、目立つように示す
- その参照には、安全に関する注意を守らなかった場合に起こりうる結果を書く
かんたんガイドだからといって、安全注意を省いてよいわけではない、ということです。
「かんたん」と「安全」のせめぎ合い
とはいえ、かんたんガイドに安全注意をすべて詰め込むと、文字だらけになってしまいます。文字が多いと、人は読む気をなくします。かんたんガイドが「かんたん」でなくなってしまっては、本末転倒です。
最近は、安全注意とかんたんガイドを別紙にしたり、1枚の紙の表と裏で分けたりする傾向が多くなっています。かんたんガイドとしての見やすさを保ちながら、安全注意も同じタイミングで手に取ってもらうための工夫です。
どんな形にするにしても、安全注意をなんとかして読んでもらう工夫は欠かせません。
「必ずお読みください」は効いているか
かんたんガイドの冒頭には、「ご使用の前に、取扱説明書の『安全上のご注意』を必ずお読みください」といった一文を必ず入れます。
ただ、正直に言えば、安全注意を読まない人は、この一文も読みません。書いたところで、それだけでは意味がないのです。
新JISが、参照を示すだけでなく、「なぜ、いつ読む必要があるのか」や「守らなかった場合に起こりうる結果」まで求めているのは、まさにこの点だと思います。「お読みください」とお願いするだけでは、人は動きません。読まないと何が起きるのかが伝わって、はじめて読む理由が生まれます。
当方が大切にしていること
当方では、かんたんガイドにも、基本的には安全注意をすべて入れる考え方で作っています。そのうえで、特に危険の大きいものは、ひと目でわかるように目立たせます。すべてを同じ重さで並べると、本当に守ってほしいものが埋もれてしまうからです。
また、詳しい説明については、二次元コードからすぐにWebの取扱説明書へ移動できるように誘導することもあります。紙のかんたんガイドを入口にして、必要な人が必要な情報にたどり着けるようにするためです。
ただし、Webに任せられるのは、あくまで詳しい説明の部分です。新JISが求めているように、ガイドで説明する作業に関わる安全上欠かせない情報は、使う人が最初に手にするかんたんガイドの中で伝える必要があります。
まとめ
- かんたんガイドがあると、多くの人はそれだけを見て使い始める。かんたんガイドが唯一読まれる紙になることもある
- 新JISは、クイックスタートガイドに、作業に関わる安全上欠かせない情報と、詳しい安全情報への目立つ参照を求めている
- 「必ずお読みください」だけでは人は動かない。読まないと何が起きるのかを伝えることが大切
- 安全注意は基本的にすべて入れ、危険の大きいものを目立たせる。詳しい説明はWebへ誘導しても、安全上欠かせない情報は紙に残す
新JISの全体像は「JIS Z 82079-1で取扱説明書の何が変わる?」で解説しています。
当方では、取扱説明書の本編とあわせたかんたんガイドの制作にも対応しています。お気軽にお問い合わせください。
※規格の内容は、IEC/IEEE 82079-1:2019(日本規格協会の和訳)をもとに要約しています。JIS Z 82079-1:2026の本文とは訳語が異なる場合があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の製品の法令適合性を保証するものではありません。
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