取扱説明書の新JIS(JIS Z 82079-1)で変わること・変わらないこと

JIS Z 82079-1で取扱説明書の何が変わる? 現場のテクニカルライターが見た「変わること・変わらないこと」

2026年8月20日、取扱説明書の作成に関する新しいJIS「JIS Z 82079-1:2026」が制定されました。同じ日に、2006年から使われてきたJIS C 0457は廃止されています。

制定のニュースは各所で取り上げられましたが、「それで、うちの取扱説明書は何を変えればいいのか」という疑問に答える情報は、まだ多くありません。

この記事では、取扱説明書の制作に20年以上携わってきたテクニカルライターの立場から、新JISで「変わること」と「変わらないこと」を整理します。

先に結論をお伝えします。

  • 変わること:取扱説明書の「範囲」「作り方」「作り手」への目線
  • 変わらないこと:「使う人が迷わないこと」が何より大切だという原則

新JISは、国際規格IEC/IEEE 82079-1:2019と内容が同じです。この記事では規格の箇条番号を添えて紹介しますので、規格本文で確かめるときの手がかりにしてください。

JIS Z 82079-1:2026の基本情報

まずは基本情報を表にまとめます。

項目 内容
規格番号 JIS Z 82079-1:2026
名称 製品の使用情報(使用説明)の作成-第1部:原則及び一般要求事項
制定日 2026年8月20日
対応国際規格 IEC/IEEE 82079-1:2019(一致)
廃止された規格 JIS C 0457:2006(電気及び関連分野-取扱説明の作成-構成,内容及び表示方法)

製品の分野を問わない「水平規格」

新JISのもとになった国際規格は、特定の製品分野に限らず使われる「水平規格」と位置づけられています。家庭用電気製品のIEC 60335シリーズのように、製品ごとの規格が使用情報について定めるときの土台になることも想定されています(箇条1)。

規格番号の頭文字が、電気分野を表す「C」から、特定の分野に属さない「Z」に変わったのも、この位置づけの表れといえます。

JIS S 0137は引き続き有効

消費生活用製品の取扱説明書について定めたJIS S 0137(消費生活用製品の取扱説明書に関する指針)は、今回の制定後も有効です。家電や日用品の取扱説明書では、両方を見比べながら進めることになります。

変わること①:「取扱説明書」から「使用情報」へ

新JISでまず目を引くのが、「使用情報」という言葉です。規格では、使用情報は、対象者が製品を安全に、効率よく、効果的に使うために必要な情報を提供するものとされています(5.2.1)。

対象は家電や機械だけではない

新JISの適用範囲には、工業製品や消費財に加えて、医療機器、自動車などの輸送手段、アプリケーションソフトウェア、技術サービス、プラントのような大規模なシステムまでが例として挙げられています。製品のライフサイクルについても、輸送、組立て、設置から、保守、修理、廃棄までの各段階が対象です(箇条1)。

旧JISの名称が「電気及び関連分野」だったことを考えると、対象は大きく広がりました。

使用情報の3つの種類

規格は、使用情報を次の3種類に分けています(5.2.1)。

  • 概念情報:製品の目的やしくみを理解するための情報
  • 指示情報:手順など、そのとおりに作業するための情報
  • 参照情報:トラブルシューティングなど、必要なときに調べるための情報

たとえば炊飯器なら、「炊飯コースごとの違い」は概念情報、「お米をセットして炊飯を始める手順」は指示情報、「表示部にエラーが出たときの対処」は参照情報にあたります。

この3つは、読まれ方がまったく違います。概念情報は最初に一度読まれ、指示情報は作業しながら読まれ、参照情報は困ったときにだけ探されます。1冊の取扱説明書の中でも、この違いを意識して書き分けると、ぐっと使いやすくなります。

紙の冊子だけが使用情報ではない

規格の序文では、使用情報を届ける形として、製品マニュアルのような冊子のほか、製品本体や包装のラベル、ウェブサイト、印刷可能なファイル、動画などが挙げられています。

さらに規格は、使用情報が、包装やラベル、顧客サポート用の資料、販売促進用の資料など、製品についての他の情報と一貫していることが望ましいとしています(5.3.6)。

たとえば、紙の取扱説明書は改訂したのに、Webに載せたPDFやFAQは古いまま、ということは起こりがちです。新JISの考え方では、これらはすべてひとつながりの「使用情報」です。どこかひとつだけを直しても、十分とはいえません。

関連記事:EU機械規則で取扱説明書はデジタル提供できる? 2027年1月の適用前に確認したい条件

変わること②:「作り方」が問われる

新JISは、でき上がった取扱説明書の中身だけでなく、それを作り、維持していくしくみにも踏み込んでいます。規格はこれを「情報管理プロセス」と呼び、次の4つのまとまりに取り組むことを求めています(6.1)。

  1. 情報の分析及び計画
  2. レビュー、編集及びテストを含む設計及び開発
  3. 制作及び配布
  4. 維持、保守及び改善

分析は、製品開発の早い段階で

注目したいのは、分析を製品のライフサイクルの早い段階で行うよう求めている点です(6.2.1)。誰が、どんな状況で、何のために製品を使うのか。それを理解したうえで、媒体や構成を決めていく流れです。

取扱説明書は、製品が完成してから最後に作るもの、と考えられがちです。しかし規格の考え方では、取扱説明書づくりは製品開発と並行して始まります。

資料だけでは、取扱説明書は作れない

ここで、私が現場で感じていることをお話しします。

制作のご依頼をいただくとき、仕様書や設計資料だけをお預かりすることがあります。もちろん資料は欠かせません。ただ、資料だけでは、発注元が「誰に、何を、どう伝えたいのか」までは伝わりにくいのです。

マニュアルには、原則として唯一の正解がありません。発注元の意図が満たされて、はじめて完成といえるものです。だからこそ私は、作り始める前のヒアリングを大切にしています。誰が読むのか、どんな場面で使われるのか、何を一番伝えたいのか。こうしたことを最初にすり合わせておくと、仕上がりが大きく変わります。

規格が求める「分析及び計画」は、まさにこの作業をしくみとして行うことだと、私は受け止めています。

作って終わりではなく、維持する

もうひとつのポイントは、「維持、保守及び改善」がプロセスに含まれていることです。規格は、使用情報の内容を、製品の耐用期間にわたって最新に保ち、再利用できるようにしておくことが望ましいとしています(5.4)。

製品は発売後も改良されます。そのたびに取扱説明書のどこを直すのか、誰が判断するのか、古い版はどう扱うのか。こうしたルールを決めておくことも、新JISの観点では大切な準備です。

変わること③:「作り手」と「確かめ方」が問われる

作り手の力量

新JISには、使用情報を作る人の「専門的力量」についての箇条があります(箇条10)。

規格は、使用情報の作成は力量のある人に任せなければならないとしています。そして、必要な力量の例として、製品のライフサイクルや対象者の調査・分析、安全に関する情報の収集、校正・校閲、翻訳・現地語化の体系化などを挙げています(10.1、10.2)。さらに、熟練度を3つのレベルに分ける考え方や、翻訳者に求められる力量も示されています(10.3、10.4)。

製品に詳しい人が、わかりやすい取扱説明書を書けるとは限らない

この箇条を読んで、私が真っ先に思い浮かべたのは、技術者が書いた取扱説明書です。

製品を開発した技術者は、誰よりも製品に詳しい人です。ところが、自分にとって当たり前のことは、説明が必要だと気づきにくいものです。その結果、初めて使う人がつまずく箇所の説明が抜け落ちてしまいがちです。

製品の知識と、それを初めて使う人に伝える力は、別の力量です。規格が作り手の力量を独立した箇条で扱っているのは、この違いを踏まえたものだと思います。力量については、今後の記事で詳しく取り上げます。

「確かめる」ことも求められる

新JISは、作った使用情報が本当に役立つかを確かめる方法にも触れています。附属書A(参考)では、評価の方法として次の3つが挙げられています。

  • 網羅性検査:必要な内容が含まれているかを確認する
  • 有効性の検査(机上チェック):構成や媒体、形式が適切かを確認する
  • 経験的有効性検査:実際に使ってもらって確かめる。ユーザビリティテストのような方法

特に消費者向けの製品では、熟練した専門家だけでなく、その製品や使用情報に慣れていない人も参加して確かめることが望ましいとされています(4.2)。

作った本人が読み返すだけでは、わかりにくさにはなかなか気づけません。製品に触れたことのない人に、取扱説明書だけを渡して使ってもらう。手間はかかりますが、効果の大きい方法です。

変わらないこと:「使う人が迷わない」が一番

ここまで「変わること」を見てきましたが、取扱説明書づくりの根っこにあるものは変わらない、と私は考えています。それは、「使う人が迷わないこと」が一番大切だという原則です。

新JISも、使用情報は、想定される作業や目標に照らして、対象者が使えて適切なものでなければならないとし(5.2.3)、分かりやすさを情報品質の要素のひとつに挙げています(5.3.7)。

現場で見る「困った取扱説明書」

裏を返すと、現場ではユーザー目線が欠けた取扱説明書をよく目にします。

典型的なのが、仕様書の内容をそのまま書き写したものです。技術者の目線で書かれているため、主語が機械になっていることがよくあります。炊飯器の例で比べてみます。

  • 主語が機械:本機は、内なべの未装着を検知した場合、炊飯動作を開始しない。
  • 主語が使う人:内なべが入っていないと、炊飯は始まりません。内なべを本体に入れてから、[炊飯]ボタンを押してください。

前者も間違いではありません。ただ、使う人が知りたいのは「機械が何をするか」ではなく、「自分が何をすればいいか」です。

全部書けばいい、というわけではない

規格には、製品の機能を何もかも文書にするのは無駄だ、という趣旨の記述があります(5.3.3)。機能をすべて書き並べると、本当に必要な情報が埋もれてしまうからです。規格はこれを「ミニマリズム」と呼んでいます。

一方で、安全に関する情報のような重要な情報は、必要に応じて繰り返さなければならないともしています。削るべき情報と、繰り返すべき情報。その見極めが、作り手の腕の見せどころです。

目安は「見て3秒」

家電などの取扱説明書では、私は「見て3秒で理解できる」ことをひとつの目安にしています。

製品によってもちろん変わりますが、人が理解しようと粘れるのは3秒くらいではないか、と私は感じています。それ以上かかると、理解すること自体をあきらめてしまう人が増えるはずです。だから、イラストも含めて、ページを開いて3秒でおおまかな使い方がわかるようにする。そのうえで、必要な情報はきちんと盛り込む。この両立をいつも意識しています。

3秒という数字に科学的な根拠があるわけではありません。ただ、この目安を持っておくと、「この説明は本当に必要か」「図にしたほうが早く伝わらないか」と、自然に問い直せるようになります。

取扱説明書は、設計の不備を補えない

もうひとつ、変わらない大原則があります。規格は、使用情報が設計の不備や安全システムの欠如を補うことはできない、としています(5.2.4)。

警告を書き足せば安全になる、というわけではありません。危険はまず設計で減らし、それでも残るリスクを取扱説明書で正しく伝える。この順番は、新JISになっても変わりません。

その一方で、規格は、使用情報に欠陥があれば製品全体が欠陥品になる、とも述べています(5.2.2)。取扱説明書は製品のおまけではなく、製品の一部なのです。

準拠は義務? 押さえておきたい位置づけ

JISは任意規格です。新JISに準拠していないからといって、直ちに法令違反になるわけではありません。

ただし規格自身が、要求事項を満たしても製品の法令遵守を確認する義務がなくなるわけではないこと、そして不適切な製品情報が製品安全(PS)や製造物責任(PL)のリスクの原因になりうることを明記しています(4.1)。

PL法の考え方では、製品の欠陥は一般に「製造上の欠陥」「設計上の欠陥」「指示・警告上の欠陥」の3つに分けられます。取扱説明書の内容は、このうち指示・警告上の欠陥に直接関わります。

また、取引先の品質審査で、取扱説明書の規格への適合を確認されることもあります。新JISは国際規格と内容が同じなので、海外向けの製品でも同じ考え方で対応できるのも利点です。

まず何から始める?

最後に、新JISを受けて、まず取り組みたいことを5つ挙げます。

  1. 使用情報を洗い出す:取扱説明書だけでなく、本体や包装のラベル、Webのマニュアル・FAQ、動画など、製品について提供している情報をリストにする
  2. 内容がそろっているか確かめる:洗い出した情報どうしで、手順や注意事項、仕様の記載が食い違っていないかを確認する
  3. 読む人を書き出す:誰が、どんな場面で読むのかを具体的に書き出し、今の取扱説明書がその人に合っているかを見直す
  4. 不慣れな人に使ってもらう:製品に触れたことのない人に取扱説明書だけを渡し、つまずいた箇所を記録する
  5. 改訂のルールを決める:製品を改良したときに、誰が、どの情報を、どう更新するかを決めておく

どれも、大きな費用をかけずに始められることばかりです。

このブログでは今後、新JISをテーマに、取扱説明書の言葉づかい、図の作り方、作り手の力量、安全注意の書き方、外注するときの進め方などを、現場の経験を交えて取り上げていきます。

まとめ

  • 2026年8月20日にJIS Z 82079-1:2026が制定され、JIS C 0457は廃止された。内容は国際規格IEC/IEEE 82079-1:2019と同じ
  • 変わること:対象が「使用情報」全体に広がり、作り方(情報管理プロセス)、作り手(力量)、確かめ方(評価)まで問われる
  • 変わらないこと:「使う人が迷わない」ことが一番。取扱説明書は設計の不備を補えず、製品の一部として扱うべきもの

当方では、新JISに沿った取扱説明書の新規制作に加え、旧JISを前提に作った既存の取扱説明書の見直し・改訂にも対応しています。お見積り・ご相談は無料です。お気軽にお問い合わせください。


※規格の内容は、IEC/IEEE 82079-1:2019(日本規格協会の和訳)をもとに要約しています。JIS Z 82079-1:2026の本文とは訳語が異なる場合があります。正確な内容は規格本文でご確認ください。

参考

  • 日本規格協会「JIS Z 82079-1:2026 製品の使用情報(使用説明)の作成-第1部:原則及び一般要求事項」
  • IEC/IEEE 82079-1:2019, Preparation of information for use (instructions for use) of products – Part 1: Principles and general requirements
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