そのマニュアル、直訳していませんか?海外レビューで評価を落とす3つのNG表現

丹精込めて開発した製品を、いよいよ海外市場へ。製品の品質には絶対の自信がある。しかし、海外のECサイトやレビューサイトを見てみると、思いがけず低い評価が付けられていることがあります。

「製品の性能は良いのに、なぜか評価が低い…」

その原因は、意外にも「取扱説明書」にあるのかもしれません。

日本のマニュアルをそのまま直訳しただけでは、言語として正しくても、海外のユーザーには意図が伝わらず、ストレスを与えてしまうことがあります。それが、製品そのものの評価を下げる一因となってしまうのです。

今回は、日本のマニュアルでよく見られるものの、海外では評価を落としかねない「3つのNG表現」を、具体的な改善案とともにご紹介します。

NG表現1:〜してくださいの多用

日本のマニュアルでは、「Aボタンを押してください」「次にBのカバーを開けてください」といった、丁寧な〜してくださいPlease do〜)という表現が頻繁に使われます。これは日本の「おもてなし」文化の表れですが、特に英語圏のユーザーにとっては、冗長で、少し回りくどい印象を与えてしまうことがあります。

改善のポイントは、動詞から始める命令形を基本とすることです。これは失礼な命令口調ではなく、ANSI Z535.6-2023IEC /IEEE 82079‑1:2019 が推奨するテクニカルライティングの標準スタイルです。

日本語的発想(直訳) 改善案(命令形)
First, please press the A button. Press the A button.
Next, you should open the B cover. Open the B cover.
It is necessary to make sure that the power is off. Verify that the power is off.

NG表現2:曖昧な擬音語・擬態語。しっかりカチッとでは伝わらない

日本語は感覚的な擬音語・擬態語(オノマトペ)が豊かな言語です。しかし、それを直訳しても海外ユーザーにはほとんど伝わりません。

曖昧な日本語表現 改善案(客観的な指標)
ネジをしっかり締める トルクレンチを使い、5 N·m で締める。
カチッと音がするまで差し込む プラグを奥まで差し込み、ロックレバーが元の位置に戻ったことを確認する。
ハンドルをゆっくり回す ハンドルを 1 min に 5 回転以下の速度で回す。

客観的な数値・視覚的確認・測定器に置き換えると、誰でも同じ結果が得られます。(Plain Language Guidelines 参照)

NG表現3:親切心が生む、過剰な情報と複雑な一文

日本のマニュアルは、ユーザーを気遣うあまり、一つの文に多くの情報(背景、理由、注意点など)を詰め込みがちです。非ネイティブの読者にとっては文構造が複雑になり、要点を掴みづらくなります。

例: 「本製品の性能を最大限に引き出すため、ご使用になる前には、必ず付属のケーブルを使って、ランプが緑色に変わるまで約3時間、充電を行ってください。」

改善案:One sentence, one idea(1 文 1 主題)の徹底

初めて使用する前の準備

  1. 付属の専用ケーブルを製品に接続します。
  2. 充電中はインジケーターランプが赤色に点灯します。
  3. 充電時間は約 3 時間です。
  4. 充電が完了すると、ランプが緑色に変わります。
  5. ランプが緑色に変わったことを確認してから、使用を開始してください。

まとめ:最高の製品体験は、分かりやすい“言葉”から

海外のユーザーは、あなたの製品だけでなく取扱説明書も含めて「製品体験」と捉えています。どれだけ優れた製品でも、マニュアルが分かりにくければ、その価値は半減してしまうかもしれません。

今回ご紹介した 3 つの NG 表現と改善策、そして EU の多言語要件・ANSI と UL の役割を意識してリライトすれば、レビュー評価の底上げはもちろん、問い合わせ工数の削減・ブランド信頼性の向上にも直結します。ぜひ一度、自社のマニュアルを海外ユーザーの視点で見直してみてください。

参考文献・リンク

※本記事は一般情報の提供を目的としており、個別ケースでの法的適合性を保証するものではありません。